Mac(Lisa)誕生の背景をアトキンソン氏が明かす
前のエントリーにコメントを下さっているsumimさんはSmalltalkやSqueak、Altoに詳しく、Squeakを広めるべく精力的に活動をされている方です。
彼も前のエントリーに関連してご自身のはてなダイアリーにエントリーを入れてくださっていました:
はてなダイアリー - sumim's smalltalking-tos
LisaやMacの誕生の背景にあるSmalltalk/ALTOの存在は無視できない、という内容です。
そう、今年はPC-8001の誕生から25周年でもありますが、Mac誕生20周年でもあるんですよね。
そのMacの誕生前夜の話は12日に飯田橋で講演を行うビル・アトキンソン氏に聞いてもいい話題かも知れません(まだ少しだけ席に余裕があるようなので、興味のある人は週明けにでも申し込みにチャレンジしてみてください)。
今回、アトキンソン氏は東京と大阪で公演をするのですが、今、よく調べたら大阪の公演はカラーマネージメントの話が中心なようです。これに対して、東京公演は「私の人生とMacintosh」と題して、完全にMac誕生前夜の話が中心になります。
聞くところでは、「Macintosh GUIの開発過程」についても、Lisaにまで遡って解説してくれるそうで、デスクトップ、アイコン、メニュー、ウィンドウ、スクロールバー、ボタン等々の要素の、開発段階での姿を見せてくれるとのことです(プロトタイプ機の開発中画面を写したポラロイドが多数残っていて、これらをスキャンしたらしいです)。もっとも、トーク内容の詳細な部分についてはこれから変更の可能性もあるので要注意とのことです。
この過程を見ると、Macが決してXerox Altoを単純模倣したものではなく、アップルで独自に工夫、開発した要素がたくさんあることがわかるとか...
もっとも、大阪で行われるカラーマネージメントの話もかなりおもしろいことになると思います(何せアトキンソン氏、自分でカリビレーション方法を開発して、最適なカラープロフィールまでつくってしまったということなので)
参加費、15000円が高い、という声も耳にしますが、実質の参加費は数千円で、これには9800円の写真集の料金とパーティーとの飲食代が加わった料金です。写真集、「Within the Stone」(その場でサインがもらえる)は自然写真家に転向したアトキンソン氏の作品を集めたもので神秘的な石の表面の世界の魅力を写真に収めたもの。彼が開発したカラーマネージメントシステムと、それに惚れ込んだ帆風のコラボレーションで誕生しました。
すっかり、アトキンソン氏の話題ばかりになってしまいましたが、MacやLisaの前にはAltoやSmalltalkがあり、その前にはダグラス・エンゲルバート氏のoN Line Systemがありました。さらにその前にはバネバー・ブッシュ氏のMEMEXがあり、先見性のある人達は将来のパソコンの普及や世界規模のネットワークがどんな未来をもたらすかをちゃんと予見していたんですよね。
ただそれを言ってしまうと、インターネットでの楽曲販売も約10年前のインターネット商利用開始直後から実験的に始めていた会社もあったし、iTunes Music Store誕生前夜にも、たくさんの他社製サービスがあった。
そんな中で、唯一、あれだけ成功させたiTunes Music Storeには、やはりそれなりのすごさがあったと思うし、それと同じ理由でやはり最初のMacを世に送り出したMacチームの貢献も偉大だったと思います。
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コメント
ご紹介、ありがとうございます。まだまだ勉強中ですのでオーソリティはご勘弁を(^_^;)。
もちろん、Smalltalk システムが GUI ベースの OS としてなしえなかった Mac の商業的成功とそれをもたらしたアトキンソンはじめ、Apple のメンバーのオリジナリティあふれる仕事の内容をことごとく否定することが目的ではありません。ただ Apple が成し遂げたことについて、Smalltalk システムを知らない、知ろうともしない人によって語られがちな誤った、あるいは意図的にデフォルメされたものより、もっと正確な理解とそれに対するふさわしい評価が(Smalltalk、Mac 双方に)あってしかるべきだと最近は考えるようになりました。Smalltalk システムに限らないにしても、もしオリジナルがあるのならその成り立ちを皆がよく知っておくことで、Apple へのフィードバックに“ゆがみ”や“ノイズ”を生じさせないために大切であろうとも考えるわけです。
投稿: sumim | 2004.05.09 04:43
sumimさん、オーソリティーはやめておきました(笑)
なるほど、確かにおっしゃる通りですね。
雑誌を含む紙媒体には紙幅、ラジオやテレビ、講演には放送時間枠という制限があるので、おっしゃる目的を果たすのには向いていませんよね(私はこれらのメディアは最新のニュースを知ったり、おもしろいものごとを発見するためのきっかけをつくるものだと考えています。例えばプログラミングの魅力にしても、雑誌で1から覚えようと言うのは無理な話で、雑誌ではそのおもしろい部分だけを伝えて後は書籍に任せるのがいいかな、と)
こうした歴史的背景を記していた本は以前はたくさんあったのに、最近ではあまり見かけませんよね。
だいたい、本屋さんに言ってもコンピューター書籍関連コーナー内での分類が「Windows、Mac、Linux、資格、インターネット、アプリケーション、プログラミング」とかで、こういった歴史的背景とかユーザーインターフェース関係、デザイン関係の書籍とかがどこにあるのか探しにくいですよね。
「パソコンなんか買って何をするの?」と言われていた時代が終わり、パソコンを使う目的が「電子メール」と「Webブラウジング」の2つに集中してしまった今こそ、こういった歴史を振り返るのが大事な気もします。
投稿: nobi | 2004.05.09 04:54
確かに最近は読んで歴史がひも解ける本ってのは少ないな。
個人的にはPC USERの連載から単行本になった脇 英世著の「IT業界の開拓者たち」と「IT業界の冒険者たち」なんかは人物にフォーカスした歴史が見れて面白い。あとはNHKの「電子立国」と「新電子立国」の書籍版かな。
投稿: Kiyotaka | 2004.05.09 06:18
Smalltalk システムの側から、Mac の生い立ちに触れた歴史書としては、「未来をつくった人々」(ISBN:4839902259 )が比較的、良書だと思います。ただ、Smalltalk システムについて通りいっぺんの知識(アラン・ケイの作ったオブジェクト指向のプログラミング言語…程度)しか持たずに目を通しても、チンプンカンプンで得られるものは少ないでしょう。それこそ、現存し稼働するもっとも古い Smalltalk システムのひとつである Squeak を動かしつつ、「これは、このアプリ、この GUI ウィジェット、この OS 機構の成り立ちに触れているのだ…」と逐次確認しながらでもなければ…まあ、半分冗談ですが(笑)。ただひるがえって私自身、Smalltalk システムに触れることなしに同書を読んでいたら、意味不明と読み飛ばすか、まったく違った受け取り方をした部分が多かったはずで、やはり文章で伝え得る情報はごくわずかなんだな…と今さらのように実感させられたりします。
長くなりましたが、もうひとつ。本エントリーにからめては同書に、アトキンソンの後の言動にからめた重要な脚注があります(p.470)。「アトキンソンはずっと、他人が PARC 訪問に重要性を付加することおを嫌っていた。『後知恵で言えば、行かないほうがよかったくらいだ』彼は語る。『あの一時間半が我々のやったすべてを汚染しているが、我々はオリジナルの研究をずっとたくさんやっていたんですよ』」 Smalltalk システムと Mac との間になぜこれほど(他には見られない)高い類似性があるかについて疑問を抱かない人(Smalltalk システムを知らず、そうした疑問を抱き得ない人も含めて)には、逆に、この一言の“重み”はなかなかピンと来にくいと思います。なんだか、ちょっともったいない話ですね。似たようなことは、今回の講演内容の受け取り方についても言えるような気がしています。
投稿: sumim | 2004.05.09 15:05
sumimさんのところからジャンプしてきました。nobiさんおひさしぶりです。10年してやっとビルさんと水曜日にお会いすることが出来ました。彼の人柄や今回の写真集のすばらしさに直接触れ、ただただ感動するばかりでした。12日にnobiさんもおいでになるとのこと、会場でお会いするのを楽しみにしています。
投稿: thoru | 2004.05.10 00:20
sumimさん、ありがとうございます。さっそくワンクリックしてみようかな。その前にSqueakかな(笑)、Smalltalk Agentがなくなってしまったのは今更ながらちょっと残念ですね。
thoruさん!ご無沙汰です。Pickle's Bookから随分、時間が経っちゃいましたね。
thoruさんといえば、BillがまだGeneral Magicにいた頃、thoruさんのZiZiの話とかをしたのを覚えています。そしたらBillの方から「ZiZi」の大ファンだといって、娘の写真を見せてもらいました。その娘さんに去年はじめて見たのですが、もうすっかり大きくなっていて驚いてしまいました(笑)。水曜日、楽しみです。
投稿: nobi | 2004.05.10 01:16
ん〜、Smalltalk Agent は開発環境然としているので、あまり興味がありませんでした(^_^;)。やはり Smalltalk は暫定ダイナブック環境として使えないと!(笑) その点 Squeak は Smalltalk システムとして非常に古いだけあって、暫定ダイナブック環境に近い雰囲気を保っており、軒並み開発環境然としてしまった他の Smalltalk とは別格です。ちなみに、XEROX Smalltalk-80 の正当な後継者は(VisualWorks と名前も、開発会社も変わりましたが)まだ健在です。Smalltakl Agent はどちらかというと“亜種”の部類になります。Squeak は XEROX Smalltalk-80 の Mac 用のサブセット(Apple Smalltalk)からの派生物です。分類すれば亜種に属しますが(暫定ダイナブック環境としての)精神は正統派、といったところでしょうか。
上のコメントでは、Smalltalk システムについて知らないとぉ…なんて少々オドカしてしまいましたが、くだんの本は是非、お読みになってください。エキサイティングで、かつ、とても有益な内容なので、損はないと思います(可能ならば水曜までにアトキンソンさんたちが登場する pp464-471 に目を通されることを強くお薦めします…)。Smalltalk システムに関わることで分からないことがあれば、お気軽にお尋ねいただければお答えできると思います。アラン・ケイの書いたこちらと同時に読まれると、スナップショットがあるので、うまく当時の雰囲気が伝わることがあるかもしれません。
あと、念のため僭越ながらご紹介させていただくと、thoru さんは、Squeak コミュニティでもアラン・ケイも一目置く大活躍をされています。たとえばこんな(アクセスには登録が必要です)感じで、ことあるごとにそのご活動に言及されています。さすがですよね。もちろん ZiZi も Squeak システムに移植されています。そういうわけで、nobi さんも是非、Squeak のほうをいじってみてください。宣伝でした(笑)。
投稿: sumim | 2004.05.10 04:44
sumimさんにそんなこといわれちゃうともう、穴があったらど~たらこ~たらです。(汗)nobiさんもSqueakでほんとうにぜひ遊んでみてください。絶対はまり込んじゃうとおもうです。万年素人の私ですが面白すぎていまだに首までどっぷりです。--thoru
投稿: thoru | 2004.05.11 02:20