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2008.02.24

直感力こそ大事

Japanese Garden@Ohori Park
月曜日、九州大学で行った学生向けセミナーで、外村仁さんが非常に重要なことを言っていた。

「直感力を大事にしろ」

こういうことを言うと「当てずっぽうということですか?」とか「そんないいかげんな!」という人がいるという。だが、実際、最後にモノを言うのは、この直感力ではないだろか。

私の知る人で、この直感力が鋭い人と言えば外村さんもそうだが、
元アップルの前刀さんもスゴい。
例えば彼が昔いた某メーカーの新製品なんかについて意見を求めると、すぐに「あ、あれはいいね」とか「いや、あれはダメでしょう」といった答えが返ってくる。

 返答があまりに早いので、適当に答えているのかな?と思うと、「〜〜の部分のつくりがしっかりしている」とか「あれはきっと製品イメージをよくしようとして、初期のロットはかなり部品もいいものを使っているんだろう」といったことをスラスラと答える。そして、それを聞いているそのメーカーの人が「その通り」となる。
メーカー品だけに限らず、ちょっと野生の勘のようなものを感じることがある。

それに例のあの人、スティーブ・ジョブズが、まさにこの直感の人である。
 Mac OSチームに古くからいるエンジニアの友人も「言われて悔しいこともあるけれど、確かに彼の直感の通りにすると、なるほどそれが正しい、と思わされることが多い」と語っていた。
 最近の著書でも書いた開発中の部屋にズカズカズカっとジョブズが入ってきて「このボタンをもう少し大きくして真ん中に置いた方がいい」と言われた人物だ。


以前、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)がApple Store Ginzaで「知デリ」というイベントを開催した。
某雑誌でレポートする予定が、新製品のニュースで流れてしまった。
ただし、このセミナーの内容は、非常におもしろく今でも深く記憶に残っている。
特に京都大学大学院理学研究科教授でゴリラの研究をしている山極寿一さんのお話は、ぜひまたお聞きしたい。

セッションが終わった後、どういうコンテクストだか忘れたが、ゴリラにとって「善悪」、「好き嫌い」それから何かもう1つの中では、どれが一番反応が早いかと聞かれた。答えは「好き嫌い」だという。何故なら「好き嫌い」は直感であって、頭で理由を考えたりする必要もないからだ。
直感というのは、DNAに組み込まれた記憶だったり、過去の積み重ねられたリアルの経験から生み出されてくるのではないだろうかと思っている。

 ある程度、世の中の摂理や法則も、ある程度、リアルの経験を重ねていくと、脳だか体だかの細胞に、それに対する反応のプログラムが組み込まれていき、そこから直感力が生まれてくるんじゃないか。

ただ、そう考えると、ちょっと絶望的な気分にもなってくる。
日本での教育というと、この21世紀になっても、未だに対受験戦争の詰め込み教育なのだ。

 教科書に書かれた図と文章だけで、多角形の内角の和が何度とか、高気圧から低気圧に向かって風が流れるとか、そういうことを教えようとしている。

 子供たちに真剣に学んでもらおうと考えているカリキュラムなら、実際に紙とハサミで多角形をつくらせ、それをバラバラに分解して角を集めて「ホラ、何度」とやってみたり、
実際に高気圧と低気圧をつくりだして、空気の流れを可視化するとか、そういった教育をしていることだろう。

 でも、この国ではそうした本質を見誤って、日本という狭い社会で、それも1〜2回限りしか通用しない受験というくだらないもののために、相変わらず、くだらない詰め込み教育をしている。

 受験、詰め込み教育がくだらないという議論は、私が子供の時分からあったのに、この少子で学校が生徒を欲しがる時代になっても、まだ続いているのだから、この問題は相当に根が深い。

 政府もロクでもないと思うし、学歴でしか判断できない人事の人間もどうしようもないと思う。
 ただただ与えられたカリキュラムをこなすことが教育だと思っている教育者にも困ったものだし、「ことなかれ主義」で現場の教員の工夫の芽を摘もうとする学校運営者にも困ったものだ。
 それに、なんとか生き延びようと、あの手この手をつくす塾産業との癒着とかもあるのかもしれない。
 だが、もはやそんな連中が更生するのを待っている猶予はない。
 世界は着々と進化を続けていて、日本だけがそこからどんどん取り残され、すべてのコンテクストが変わった今でも昭和を引きずり続けている。
 もはや、政府だ官僚だは頼れない、と十分わかってもいいはずなのに、完全に思考停止をしていて、とりあえず教育費だけ払って後はお任せにしている親が多いのも大きな問題なのだろう。

 日本がそうした状態で停止している一方で、コロラド州の教育者や親達が発端になり、世界中の親が未来の教育について真剣にディスカッションを始めていることと比較すると、なんだか悲しくなってくる。

これは九大のセミナーでも見せた、有名な「Did You Know 2.0」のビデオだ。コロラド州の教育者達が、これからの教育のあり方を問うために、自主制作した:

 直感力を養うリアルに基づいた教育と言う点で言うと、このビデオも必見だ。

ご存知、「パーソナルコンピューター」という言葉の生みの親、アラン・ケイの生み出したコンピューティング環境、「Squeak」を使った教育方法を紹介したビデオだ。

日本でのSqueakの紹介のされ方は「子供でもプログラミングができるすごいパソコン言語」と、Squeakの言語としての凄さに注目したものが多いが、本当に注目すべきは、彼らがそれを使ってどういう教育をしようとしているかだ。

44分ほどあるビデオを全編みる余裕がない人は16分50秒の当たりから再生して欲しい。
ここから子供たちは重力の勉強をする。
ボールが屋上から落ちる様子をよく観察する。時分の目で、何度も確かめる。
その後、ビデオカメラで撮影した落下の様子を、みんなでもう1度、観察し、気がついたことを話し合う(19:40秒)。
つづいて、生徒達は、簡単にプログラミングができるSqueakを使って、ここでみた自然現象(つまり引力による加速)をプログラムを使って再現してみせるのだ。

リアルな体験ー>観察ー>話し合いー>咀嚼といったプロセスを経ることで、
教科書に「落下する物体は地球の引力によって加速する」とだけ書かれた文章を読まされるだけの子供とは異なる直感力が養われるような気がしてならない。

そして、もしそうだとしたら、これから先の日本にますます不安を覚えざる終えない。

発展途上国の政府を通して配られる予定の100ドルPCでは、Windows版もつくられているが、少なくとも現行バージョンにはSqueakが標準で搭載されており、OLPC本体と一緒にアラン・ケイの実験校で生み出されたカリキュラムが輸出される可能性もある。

日本よりもはるかに物価も安く、子供たちの人口も多く、はるかにリアルな体験の多い発展途上国の子供たちが育つ頃、果たして日本は「先進国」の座を維持できているのだろうか?

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2月 24, 2008 opinion, 文化・芸術, 経済・政治・国際 |

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 またまた林信行さんのブログからです。「直感力こそ大事」 僕も直感はとても大事だ [続きを読む]

受信: 2008/02/25 11:46:18

コメント

初めまして、こんにちは。いつも楽しく拝見させて頂いています。
私、長崎アップルユーザグループのKenjiこと川原と申します。

実は昨日長崎にてOLPCとSqueak、そしてAppleに関するイベントを開催しました。
http://mixi.jp/view_event.pl?id=27632594&comm_id=2089927

その際、公演して頂いたOLPC volunteer team, Japanの方に100ドルPC XOの実機を持ち込み頂き、OLPCの教育思想の説明やSqueakのハンズオンセミナーを行いました。

最初は子供でも簡単にプログラミングができるSqueak、というイメージが強かったのですが、その思想や背景を知るにつれてXOがただの廉価なラップトップではなく、教育プロジェクトなのだという事が理解できました。

今回のブログは個人的にも非常にタイムリーな話題でしたので、初めて書き込みさせて頂きました!

投稿: Kenji | 2008.02.24 22:33

Kenjiさん

なんともおもしろそうなイベントですね。ぜひ、どこかで詳しいレポートを書いて教えてください!

投稿: nobi | 2008.02.24 22:38

ありがとうございます!

目下レポート作成中ですので、完成次第ご連絡させて頂きます。
また、先日mixiにて偶然私のマイミクさんからnobiさんを発見してしまいましたので、mixiメッセージにてご連絡差し上げます!

投稿: Kenji | 2008.02.25 20:35

初めまして!!いつも拝見させて頂いてます(笑)。

ちょうどわたくし自身が現在懸命に学んでいる内容と重なっていましたので
コメントさせて頂きました(笑)。
大変長文ですがお付き合い頂けましたら幸いです(汗&笑)。

わたくしは現在コーチングを学んでいます。コーチングとはコミュニケーションを
通して人間が元々持っている可能性を最大限に自発的に活かすスキルです。

そして、わたくしが学んでいる講座でのコミュニケーションの定義は
「とても深い深い無意識下の繋がり」と捉えています。

この「とても深い深い無意識下の繋がり」をトレーニングにより日頃から
感じ取る様になることで自然と直感力も鍛えられます。

そして、大変平たい表現をしますが鍛え上げたコミュニケーション能力を
使って対面する人から最大限の能力を引き出せる様ご本人が自発的に気が付き
行動が出来る様に背中を押すお手伝いをします。

このスキルは年齢性別関係なくどの分野、どの場所においても使えます。
もちろん教育にも。というよりも教育分野が一番これを必要としているのかもしれません。
ちなみにフィンランドがこのスキルを教育分野で積極的に利用しています。

そして、これはnobiさんの記事の否定とは取らないで欲しいのですが、わたくしがこれを学んで
気が付いたことは直感力とは過去の経験の蓄積ではなく「人間が元々持ち合せている能力」だという事です。

ちなみに子供の方が直感力が優れている部分があります。その理由は子供には「経験」という
フィルターが脳にかかっていないからです。だから子供の言う事は本質をついている部分が多いのです。

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからわたくしの言いたい本題に入ります。
このコミュニケーション能力は対象は人間だけではありません。恐らく冗談かなにかの様に
感じ取られるでしょうが「とても深い深い無意識下の繋がり」を通して接触しますので対象が
物質でもその本質や在り方が感じ取れるのです。

恐らくSteve Jobs氏や前刀氏はトレーニングをせずともこのコミュニケーション能力を
持ち合わせているのです。そして、その能力がモノとの接触に無意識に働いているのです。

ちなみにこの能力は子供の頃は誰もが直ぐに使う事が出来るのですが成長と共に
社会の枠組みの中で発揮出来なくなって行きます。その原因は社会を背景とした
「価値観」というフィルターが原因です。平たく言いますと「思い込み」です。

そして、大人になる頃には思い込みで物事を捉え、直感で物事を受取らなくなります。
この思い込みは家族との関係や詰め込み勉強、社会経験の中で形成されて行くのかもしれません。

だから成人しても直感力がある方々は「社会の枠の外側」におられる可能性が高いのかもしれません。
そして、失礼かもしれませんが、もしかするとSteve Jobs氏と前刀氏はどこかに子供っぽい傾向があるのかもしれません。

nobiさんが心配されている通り現在の日本は行き詰まり感が強い状況です。これは日本社会の在り方自体に問題があるのだと
わたくしの大師匠が仰っていました。

わたくしも同じ心配を抱える人間の一人です。
今後もnobiさんの様な問題意識を持った方と意見交換が出来る機会があればと願っております。

長文乱文大変失礼致しました。

投稿: +.k代表 | 2008.02.25 20:53

Squeakersビデオの残念なところは、重要な場面が抜け落ちてしまっているところです。実は、このクラスの中には「一番重い砲丸と、軽いスポンジボールをいっぺんに落としてみたら違いが良くわかるかも」といった女の子がいたのです。が、編集した人がその発言の重さがわからなかったのですよね。アイディアの価値を見抜くというのは、直感もいるし知識もいるという例になってしまっています。

投稿: よしき | 2008.02.26 17:52

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